「やってみないと分からない」
桜庭和志はそう言った。中井祐樹も言った。大会をプロデュースする選手と審判委員長が「分からない」と言ってしまう興行とは、いったい何なのか。
いや、まさにそれこそ分からないわけだが、なぜ分からないのかに関してはハッキリしている。このQUINTETが、格闘技史上初の試みだからだ。
グラップリングのビッグイベントであり、試合形式は団体戦、しかも「抜き試合」である。チームは5名編成で、チーム全体の合計体重が制限されているため、ヘビー級の選手ばかりが出場するわけではない。大きい選手が一人いたら、その分、軽量級・中量級の選手も入ることになるわけだ。
それが試合にどう影響するか。60kg台の選手と100kgを超える選手が闘うかもしれない。打撃なしのルールだから、それも成立するのだ。しかも試合は大将戦以外、判定なし。一本を取らなければ引き分けで、両者が姿を消す。ということは、軽い選手が「逃げ切る」ことで相手のポイントゲッターを潰してしまうかもしれないということ。
エースの5人抜きがあるかもしれない一方で、伏兵に足元をすくわれる可能性も考えられる。それが「団体戦・抜き試合」の妙味だと言っていいだろう。選手一人ひとりの勝ち負け・引き分けがチームの勝敗に大きく影響する。試合は自分のためだけのものではない。たとえばの話「自分が変な試合をしたら桜庭さんに迷惑をかけてしまう」と思いながら闘う心境とはどんなものなのか。
同じ選手でも、置かれた状況によって闘い方が変わってくるかもしれない。同階級での闘いならガンガン極めにいく選手が、体重差マッチでどう闘うか。引き分けを狙うか、あくまで攻めるか。スタミナの消費度合いも関係してくるだろう。
しかもQUINTETルールでは、反則や消極的な試合ぶりには「指導」が入り、「指導」3回で失格となる。これは従来の柔術、グラップリングと大きく違う点で、選手は「動かされる」ことになると言ってもいい。そういうルールで、どの選手が力を発揮するか。ルールに適応できない強豪選手も出てくるのか。そうしたこともまた「分からない」のだ。
現時点では、すべてが「予測」でしかない。おそらく試合では、さまざまな要素が影響しあい、化学反応を起こしていくのだろう。その化学反応が、新たな格闘技の可能性と世界観を作り出していく。(格闘技ライター◎橋本宗洋)